23 食べ物:山の恵み
海からは遠かく、町からも離れていたので海産物には縁遠かったものの、四季折々変化のある山の恵みにあずかることができました。今も山菜を採って来てなんとか督励して作ってもらっていますが、昔の八溝の味にはほど遠いものです。
『ふきんじょみそ』 「ふきんじょ」はフキノトウのことで、巾着のような形からの語源と思われます。凍溶け(いでどけ)間もない山の斜面にいち早く芽を出すフキンジョは春の到来をいち早く知らせる山菜です。わずか数日で薹が立ってしまいますが、芽が出たばかりより少し開き加減の茎が長くなった方が苦味や香りも強くなり、山菜らしい味がします。油で炒めて味噌を混ぜ、砂糖を加えるだけの単純なものでしたが、八溝の味そのものです。初夏にフキを鎌で刈ってきて、茎を茹でて皮を剥いて煮付けたものも忘れがたい山の恵みでした。
『山芋』 葉がすっかり落ち、蔓だけが残る頃、直線の棒の先に刃が付いた専用の掘り棒で土を掻き上げます。長いものは1メートルにもなりますが、真っ直ぐに伸びているとは限りません。石や木の根を避けて複雑な形になっているのもあります。根気がないうえに早く結論が出したい性格であったので、半分も掘ると引っ張り上げようとして折れてしまうことがしばしばでした。本物の自然薯は粘りがあって噛みごたえがあります。ヤマイモには「どんご(むかご)」ができますので、蒸かして食べたり御飯に混ぜましたが、いぐ(えぐ)味がありました。山芋掘りは根気と体力のいる作業でしたが、達成感もありました。掘った穴は埋め戻すのがマナーですが、そのままになっているのが目立ちます。
『ゆりね』 ゆり根を食べることは古事記にも出てきます。夏になると大きな花を三つも四つも着けて咲くヤマユリは山野草の女王です。初冬、残っている茎を目安に唐鍬で掘り上げます。鱗茎は深くないので、子どもにも容易に掘り上げられました。今は栽培のユリ根が店頭でも売られ、ネットでレシピも出ていますが、子どもの頃はきんとんで食べた記憶しかありません。小豆とは違ったねっとり感があり、おやつとして最高級のものでした。
『たらぼ』 タラの木の芽に、赤ん坊など小さいものと同じ「ぼ」が付いて「タラボ」となりました。工事後の林道脇など日当たりの良い場所にいち早く生えるパイオニアプラントです。棘のある芽を摘んできてひと茹でし、胡麻和えにして食べました。今は人よりも早く採ろうとして、幹から鎌で切って家で発芽を促す人もいるので、親木が枯れてしまいます。
『しろき』 樹肌が白いことからの命名で、コシアブラが正式名です。地域の人たちは食べる習慣がありませんでしたが、町場の人が採っていくことから、地元でも食べるようになりました。今はタラボに負けない人気の山菜です。
山菜の出る頃は農家が忙しい頃で、山菜採りのために「時間を張る」ことが出来ません。その内に、町の人が来て「じんだら:地鑪/じたたらの転訛で踏み荒らす)にしてしまいます。