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24 川学校

家は蛇行する小河川に囲まれた崖上にあり、川の音を聞きながら成長しました。放課後になると、誰が先生でもない「めだかの学校」が毎日開校されました。川学校は、生き物が対象で、しかも獲物が得られるのでドキドキ感が伴いました。
『川干し』 蛇篭の堤防には雑魚(ざこ:うぐい)がたくさんいました。蛇篭の下はヤス(村の鍛冶屋で作ってもらったものです)が届かないので、流路を変えて川干し(かーぼし)をしました。大きい石を基礎にし、間に小石や草を詰めたロックヒルダムです。しかし、漏水が多く、バケツで汲み上げても干上がりませんでした。
『ズーコン釣り』 漁法からの擬態語と思われます。近年ヤマメの里として誘客を図っています。解禁当日、狭い川に高級な竿を持った遠来の釣り人が押し寄せます。その中に地元の人は見かけません。子どもの頃はもっぱらズーコン釣りです。流れの中に入り、短い篠の先に裁縫用の糸を転用した釣り糸に針を付け、流れに合わせて引いては戻すことを繰り返します。特に川虫が羽化する夏の夕方は良く釣れました。1箇所にいることが不得意でしたが「ズーコン釣り」は移動しながら体を動かしますから飽きません。今は堀割のようにコンクリートで護岸され、魚の隠れ場所もなく、ヤマメも放流された日だけで釣り切ってしまいます。
『石打ち』「いしぶち」と濁音化、最も原始的な漁法で、道具はいりません。石打ちの条件は、魚が隠れられ、水流から上面が出ている石があり、しかも周囲には子どもでも持ち上げられる程度の石があることです。家の裏を流れる川は「石打ち」の条件が揃っていました。川の中を勢いよく歩くと雑魚は石の下に潜ります。そこを狙って、両方の手で勢いよく石を投げ下ろします。一時的の麻痺した魚が白い腹を上にして浮き上がります。大半は空打(からぶ)ちでしたが、シンプルだけに楽しい漁でした。
『ずんぶんくぐり』 夏休みになると、石で川をせき止めて天然のプールを造りました。泳ぎ方は、古来の泳法「抜き手」と「カエル泳ぎ」、そして「ずんぶんくぐり」でした。「抜き手」は自由形のつもり、カエル泳ぎは平泳ぎを真似たものですが、前には全然進みませんでした。一番の得意は「ずんぶんくぐり」です。泳ぐというよりも、石を掴まえてどれぐらい水中にいられるかを競うことが主でした。水には慣れているつもりでしたが、高校生になってプールでの泳ぎになったら、町場出身者に比べてさっぱりだめでした。
『どくもみ』 サンショウやエゴの実を潰して煮出し、袋に入れて足で揉み出す漁法です。天然素材の毒なので毒性が弱く、あまり効果的な漁法ではありませんでした。植物の毒性を理解した先人の知恵継承でしたが、今は法で禁じられ、貴重な民俗漁法も消滅してしまいました。投網漁などに比べ、魚の生態系への影響は少なかったように思います。
『めんざっこ』「めんざっこは」はメダカのことですが、ウグイの稚魚かメダカかの区別はなく、ぜんぶ小さなものは「めんざっこ」でした。メダカの語源同様、目が大きい雑魚の子ということからの名前と思われます。流れの緩やかな浅い場所で、手ぬぐいを両手で広げて川下から囲い込むとたくさん獲れました。メダカは絶滅危惧種になっています。

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