34 叱責のことば
子どもの頃から「ちょべちょべ(でしゃばり)」して、落ち着きがなかったことから、何かにつけて叱られることが多く、そのため今でも叱責の言葉が身に浸みて残っています。叱責の言葉の語源を辿ると意味の深いことが分かります。
『ごきたれ』 悪さをすると「ごきたれ」と大声で叱られました。御器は食物を盛る器の敬称で、特に托鉢をするお坊さんが持つ器のことでした。やがて食べ物を乞う乞食(こじき)の食器の意に変化し、接尾語「たれ」がつき、とうとう「馬鹿たれ」と同じ意味に成り下がり、元の意味から大きく変わりました。ゴキブリの語源も御器噛(かぶり)です。
『でれすけ』 語源は、「でれでれ」の短縮形に「飲み助」などの接尾語が付いて「でれすけ」となり、締まりのない人の蔑称となったといいます。別に、奈良県吉野の妙薬「陀羅尼助(だらにすけ)」の転訛とも言われていますが、なぜ「でれすけ」になったかは分かりません。何度言われても「カエルにしょんべん(小便)」でケロッとしていましたから、「でれすけでしまづ(始末)になんね」と嘆かれました。この他に、「でれすけかだってねで、(つまらないことを話していないで)勉強しろ」という時の「でれすけ」は、価値のない無駄なことを意味します。
『調子畚(ちょうしもっこ)』 30年代までは竹製の蛇篭(じゃかご)の堤防が決壊し、「おーがんまーし(往還回しあるいは大川増し:氾濫)」が多発し、人力での復旧工事が行われました。土砂の運搬は二人組の畚で行います。江戸時代の街道稼ぎの駕籠屋と同じく、後棒が先に担いで踏ん張ったところで先棒が肩を入れて調子を合わせて運びます。先棒が調子に乗りすぎるとバランスが悪くなり相方の迷惑となります。このことから、周囲を考えず目立とうとする人を「調子畚」と言います。子どもの頃から、人に先立って騒ぐ「お先棒担ぎ」の典型でしたから、「こらっ、調子畚」と𠮟られることもしばしばでした。
『めーす』 婆ちゃんは、「そーだめーすしてっと しんしょなぐしっちゃがら(そんな馬鹿なことをしていると身上を無くしてしまうから)」と、跡取り孫を厳しく叱りました。「めーす」は禅宗とともに鎌倉時代入って来た売僧(まいす)が転訛したものです。売を「まい」と読むのは焼売をシュウマイと読むのと同じです。売僧は僧の身分で悪徳商売をする者を蔑んだ言葉です。どのように伝播してきたのでしょうか。婆ちゃんの注意にもかかわらず、父祖伝来の身上を無くして、長らく空き家にしたままです。
『まーせんぼ』 「馬栓棒」の転訛です。馬屋の入り口には馬栓棒が渡してあり、ひどい悪さをすると「まーせんぼでかっくらすぞ(馬栓棒でたたきのめすぞ)」と、最高級の怒気で叱責されます。当時の子どもたちは「まーせんぼー」のことを誰でも知っていましたから、「まーせんぼ」で叩かれたら大変なことは承知していました。今は馬がいなくなり、「まーせんぼう」もなくなりましたから、叩かれる心配はありません。何より「まーせんぼ」の意味が分からなくなっていますから、脅しが利かなくなってしまいました。